リスティング広告はAI任せで自動化してOK?AIを勧める代理店の真意とは
昨今はChatGPTをはじめとしたAIの進化が目覚ましく、さまざまなサービスに活用されています。
Web広告の分野でもAIは盛んに活用されており、配信をAIに任せて自動化することで効果改善に成功したケースも出てきています。
そんなトレンドもあり最近では、「AIで運用自動化」を謳っている広告代理店が増えてきました。この記事をご覧いただいている方のなかにも、「最近AI運用をおすすめしてくる代理店の営業を受けた」という方がいるかもしれません。
「AIを使っているから安く提供できる」
「AIに任せておけば、運用担当者やマーケターは不要」
……本当にそうなのでしょうか?
実際、このような言葉に疑問を感じている方も多いでしょう。
本記事では、AIを推す代理店に運用を任せるべきか悩んでいる方へ、どんな場合はAIに任せてOK/NGなのか、5つの観点から紹介していきます。自社の状況に照らし合わせ、判断材料にご活用ください。
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目次
AIでリスティング広告運用を自動化するとはどういうこと?
まずは、広告運用におけるAIの仕組みについて簡単に紹介します。
リスティング広告に限らず、LINE広告、Facebook(Meta)広告など、「運用型広告」とよばれるWeb広告の管理画面には、AIによる学習機能が備わっています。Web広告の業界では一般的にAIが流行る前から、AIを用いた広告配信の最適化が推し進められていました。
では、リスティング広告の管理画面に備わっているAIはどんな観点から機械学習をしているのでしょうか?
主に以下のような項目を学習要素として、最適化が行われています。
- オークションにいくらで入札したら広告が表示されやすいか
- どんなキーワードや検索語句で成果に至りやすいか
- どんな年齢、性別、属性のユーザーが成果に至りやすいか
- どんな見出しや本文の組み合わせが成果に至りやすいか
など※成果数の最大化を目標としている場合
ターゲットから入札単価、キーワード、広告文まで、リスティング広告にまつわるほぼすべての要素がAIの学習対象です。AIはこれらの学習結果をもとに、入札単価や配信時間の調整など、自動で最善の広告運用を行っていきます(=最適化)。
なお、AIは広告が配信されてからその結果をもとに学習を開始し、最適化に足る一定のデータが蓄積されるまで継続します。「AIが学習するには一定のデータボリュームが必要である」ということは、のちほど紹介するOK/NGの例でも重要なキーワードになるため、覚えておいてください。
ちなみに、リスティング広告におけるAIは管理画面にデフォルトで備わっている機能だけではありません。外部(サードパーティー)の広告運用自動化ツールを活用することも可能です。別途コストは掛かってしまうものの、複数の媒体を一気に管理できたり、初心者でもツールの提案に従えば簡単に運用調整ができたりと、便利な側面はあるでしょう。
もちろん、外部の広告運用自動化ツールの場合でも、「AIの学習には一定のデータ母数が必要」という考え方に変わりはありません。また、ツールの提案が100%正しいとは限りません。
「ツールの提案に沿って設定していたら最初は好調だったけれど、成果が出なくなるたびにみるみる単価が吊り上がってしまった……」というケースもよく聞きます。場合によっては、人力の運用調整に戻しても取り返しのつかない状態になっていて、広告アカウントを作り直し……といったパターンもあり得るでしょう。
そうなってしまう前に、定期的に人間がチェックし、AIをうまく使いこなす必要があります。
リスティング広告運用をAIに任せてOK/NGの場合
リスティング広告におけるAIは管理画面にデフォルトで備わっている便利な機能です。しかし、ある程度AIに任せて自動化していい場合と、よくない場合があります。「なぜOK/NGなのか?自社の場合はどちらなのか?」はっきりと認識しておくことで、広告代理店からの提案にも正しい判断ができるようになります。
予算:潤沢にある(月額100万円以上)or ない(月額100万円以下)
リスティング広告をはじめとした運用型広告は原則、予算をかければかけるほど配信量が増えるようになっています。また、100万円分を1ヶ月で集中的に配信することも、1年で薄く長く配信することも可能です。この場合、配信額は同じ100万円ですが、1ヶ月の集中配信のほうが短い期間で大量に露出し、クリックされ、成果につながることが期待できます。
前述の通り、AIの学習には一定量のデータが必要です。少額で少しずつ配信するような場合、露出も少なく、成果の獲得ペースもゆっくりになるため、学習に足るボリュームを獲得するまでにかなりの時間を要します。長期間かけて成果を集めてもAIは適切な学習ができない可能性があるため、できるだけまとまった金額で配信したほうがよいでしょう。
広告をAIに任せて自動化して良い予算の目安は月額100万円以上あるか、ないかです。
広告予算が100万円あるからといって、Facebook広告に50万円、リスティング広告に50万円といった場合はその限りではありません。あくまでリスティング広告のAIに学習させるための最低ボリュームとして月額100万円を目安に考えましょう。
月100万円を1媒体にかけられない場合、AIに任せた自動化運用はおすすめできません。(予算はあくまで目安です。また、判断要素として成果数も重要になるため、次章もご確認ください。)
AI自動化運用の効果事例として、大企業でのケースがよく紹介されていますが、たいていの場合は予算数百万~数千万の大規模運用です。そして、専属担当者3人で回していたようなものを、AI+1人体制に切り替えて生産性UPにつながったというようなストーリーが多いです。大企業が成功しているのは、高額運用をすることにより、短期間でAIの学習に足る成果数を獲得できたからと言えるでしょう。
成果数:AI機械の学習に必要な件数がある or ない
AIでの自動化は「必要な成果数が取れるか」が大きな判断基準となります。目安としては月100件程度と考えましょう(10~20件程度で最適化が効いてくると書いてあるサイトも存在しますが、それはあくまでギリギリの最低限です)。
たとえば予算が100万円以下だとしても、成果が月に100件以上出ているのであれば、AIの学習は進み、最適化による効果UPが期待できるため、ある程度任せて自動化してもいいかもしれません。
低価格の商品や、「資料請求」「無料見積」といった手軽な成果地点を目標に置いている場合は、当てはまるケースも多いでしょう。
逆に言えば、月100万円以上配信していながら月に100件以上の成果が出ていない場合、AI学習の進みは悪くなってしまいます。このような状況なら、高額運用だからといってAIに任せて自動化するのは勧められません。
目標単価:適切に獲得できている or できていない
AIで自動化させたいからといって、なんとか短期間で成果数を増やそうと、無理な費用対効果で運用するのはNGです。商品・サービスごとにある許容の成果単価を超えない範囲で運用していかなければ元も子もありません。
リスティング広告は管理画面で成果単価の目標値を入力できる設定があります。設定金額が低すぎればそもそも露出されにくい一方で、高すぎるとあっという間に予算が使われてしまい、あまりに短期間でAIが学習できないケースも考えられます。
まずプロモーションを行った場合の許容の成果単価はいくらになるのか自社でしっかりと把握したうえで、広告代理店に連携し、できる限りその範囲内での適切な予算で運用をしてもらいましょう。
マイクロコンバージョン:実成果に繋がっている or いない
マイクロコンバージョンとは、最終的な成果に至るまでに経由する地点に置く、広告計測上のポイントのことです。
たとえばECサイトの場合、「商品購入」が最終的なコンバージョンですが、そこに至るまでにユーザーが経由する「商品ページ閲覧」「カート追加」「フォーム入力」などを、マイクロコンバージョンとして設定することができるでしょう。
マイクロコンバージョンはリスティング広告のAIの学習を進めるうえで、非常に有効に働きます。なぜなら、マイクロコンバージョンは最終的な成果ポイントの手前に設置するため、通常のコンバージョンより早く成果がつき、AI学習を進める条件である、「月100件の成果」に達しやすくなるからです。
しかし、マイクロコンバージョンの多用には注意が必要です。マイクロコンバージョンを設置している場合は、実際の成果につながっているかどうかも確認しましょう。実際に成果にも貢献しているマイクロコンバージョンであれば問題ありませんが、マイクロコンバージョンは多数発生しているのに、実成果にはずっと繋がらないという場合は、AIが誤った方向に最適化を進めてしまっている可能性があります。
たとえば、既存客が問い合わせてくるケースも多い「お問い合わせページ」、意欲の低いユーザーの誤操作も多い「電話番号タップ」などが、実成果に繋がりにくいマイクロコンバージョンの例として挙げられます。
このような、ずれたマイクロコンバージョンでAIが学習を進めてしまうと、配信対象が本来のターゲットからどんどんずれていく可能性があります。それに気づかないまま自動化してしまうと、マイクロコンバージョンばかり増加して、実成果は全く取れないアカウントができあがってしまうので要注意です。
外部要因:影響が少ない or 大きい
商品やサービスによって、外部要因が与える影響は異なります。たとえば、TVに取り上げられたことによる突発的なブームや、1度しかやらないイベント、1回しかないコラボなどによって、売上が急激に高まることもあるでしょう。
このような変動の大きいビジネスの場合、外部要因によって成果が出ても、それをもとにAIが学習した配信ではうまくいかないことがあります。
キャラクターとのコラボキャンペーンで商品に興味を持ち、ECサイトに訪れた人と、キャンペーン終了後の通常期に訪れる人では、ニーズや検索語句も異なります。このような場合はAIで自動化せず、人間によるキーワードや金額の調整が必要です。
なお、「長期間かけて集めた成果ではAIが適切な学習はできない」という事象の理由も、外部要因が影響しています。1年間かけて100件の成果を集めたとしても、外部要因やコロナのような予期せぬ天災、流行りの変化などの影響を受けてしまい、AIはデータの傾向を適切に判断できません。
商品が外部の影響を受けにくい分野であったとしても、コロナや震災のような急な外部要因は予測ができません。
短期間で成果数が集まりにくい場合はやはり、「細く長く」AIに学習させるような計画はやめておいたほうが無難でしょう。
広告代理店がAI自動化をおすすめしてくる本当の理由
AI自動化運用は、すべての場合において有効というわけではないことが分かりました。予算や成果数などの条件を鑑みると、AI任せでうまくいくのは大手企業の高額運用くらいに限られてくるかもしれません。
しかし、中小企業や低額運用の提案でも「うちはAIが強みです」とプッシュしてくる広告代理店は存在します。こういった代理店のなかには、初期設定だけしてその後人間の手を加えず、「AIが最適化してくれるので」といって放置してしまっている会社もあります。その場合、前述のように誤った方向にAIが学習してしまっても、気づかないままベストな運用だと信じてお金を使い続けてしまうかもしれません。
すべてのAIや代理店が悪いわけではないですが、「AIばかり」をセールスポイントにしてくる代理店には注意しましょう。
AIを使った広告運用の未来について
AIは将来的にさらに多くのビックデータを蓄積し、もっと少ない予算や成果数でもうまく最適化をできるようになるでしょう。そうなると、単に設定だけする代理店は不要になり、AIをうまく使いこなすマーケターが重宝されるようになっていくと考えられます。
AIを使いこなすためにも、「AIはどんな観点から最適化しているのか」「どういう状況だからどういう結果になったのか」「リカバリーするにはどうしたらいいか」など、仕組みや状況を人間が理解しておく必要があります。広告代理店の仕事はより一層「考えること」にシフトしていくことでしょう。
あなたが今任せている、あるいは任せようとしている広告代理店は、どのくらい人間が考え、対応してくれそうでしょうか。この記事を参考に今一度考えてみてください。